朗読音声<3分31秒>

序文

 

 1890年ごろの事でした。

ベルギーで有名な法学者、ドラブレー教授の自宅で数日を過ごしていたのですが、

2人で散歩している最中、宗教の話題になりました。

教授は、

日本の学校教育に、宗教教育が無い事に大変驚き、

「それならば、

 日本人は子供たちにどの様にして道徳教育を行うのか?」

などの質問責めに遭いました。

私は、その質問について、

海外と日本とではここまで観念が違うのかと悟り、愕然し、

すぐに答えることは出来ませんでした。

祖国日本で教育を受けた私としての感想は、

日本人に一貫した道徳観念の形成について、

それは一概に、かしこまった学校教育によるものとは言えない、というものだった為です。

また、私の妻からも

「なぜ、独特の思想や道徳的習慣が、日本全体に行き渡っているのか?」

という様な質問を幾度と受け、

この様なやりとりもあって、

今回、長い闘病期間を利用して小著を著す運びになりました。

 

 内容をまとめている内に分かったことは、

日本の道徳観念は、

「封建制」と「武士道」を知らずに、理解する事は出来ない、

という事です。

私の父、十次郎は江戸時代後期の盛岡藩士で、私が若いころは封建制度がまだ盛んでした。

その頃に私が教えられた事を

ここで整理して、皆様にお伝えできればと思います。

 

 日本について執筆活動を盛んにされる

ラフカディオハーン氏、ヒューフレイザー氏、アーネストサトウ氏、チェンバレン先生など

偉大な先輩方がいらっしゃる中で、

私が日本について、英語で書くことは気が引ける気もします。

しかし、

私が日本について書く事の利点は、

裁判で言えば、代理人や弁護士ではなく、被告人の立場を取れる事にあると言えます。

私に諸先輩の様な語学の才能があれば、より雄弁に日本の事を書けると思う事も多々ありましたが、

外国語で語る者は、自分の主張を理解してもらえるだけでも感謝しなければなりません。

 

 この小著全体に渡っての特徴は、

各分野それぞれに、日本の道徳観念に相当する、欧州の歴史や文学を例として挙げている事です。

この様にする事で、万民に身近なものとして、日本の道徳観念が理解されやすくなったかと思います。

 随所に、特に宗教関連について、私の表現が侮辱的に取れるようなものがあるかもしれませんが、

それは、キリスト教そのものに対する思いではない事をご理解頂けましたらと存じます。

私が問題点を指摘している事は、昨今のキリスト教会の、

原点からかけ離れたやり方、陰湿な伝導の手法、本質を欠いた諸々の伝統や形式についてであり、

聖書に記されるイエスご本人の教えそのものに対するものではありません。

私は、聖書を通して伝えられたイエスの教えを信仰しており、

また、律法を自分の心に刻んでいます。

旧約聖書は、ユダヤ人、クリスチャンのみならず、

今日では、異邦人に対しても、神様が与えてくださった契約の書であると信じています。

私の神学について、これ以上皆様に説教するのはよしたいと思います。

 

 この序文を綴るに際して、

多くの助言をくれた私の友、アンナハーツホーン女史に感謝の意を表します。

 

1899年12月 新渡戸稲造

 

 


 

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