朗読音声<5分26秒>

第11章 修身・克己心

 

 ◆ 喜怒を表に出してはならない

 

 武士道に於いては、

「礼」の概念を軸として、

不平不満を表に出さない忍耐力と、

相手に嫌な思いをさせない為にマイナスな感情を表に出さない精神力を

鍛えてきました。

これが、

日本人の禁欲的な民族性を形成したと言え、

「喜怒を色に表さず」という格言に通じる人は、評価される文化が出来たのです。

しかし、この一面は外面的なものに過ぎません。

実際の所、その内面に於いては、

他のどの民族にも負けないほどの感受性を持っているのが日本人なのです。

なぜならば、

感情は表に出すよりも、

抑制する方が、よっぽど努力を伴うものであり、

それこそが、心を鍛える事に繋がる訓練になっているからです。

「アメリカ人の夫は人前で妻とキスをし、家の中では打つが、

 日本人の夫は、人前で妻を打ち、家の中ではキスをする」

という言葉が有名ですが、

まさしくこの事であると言えます。

 日本人の平静心は、

日清戦争への出征時の駅の様子からも分かります。

その場を見たあるアメリカ人は、

悲しみと苦しみに溢れた地獄の様な状況になると予想していましたが、

実際は、小さな声で泣き、列車の出発と共に

帽子を取って深くお辞儀をするだけで、

真逆であったのです。

 ある家庭に於いては、

父はその威厳故に、病床に伏す息子には目もくれないふりをしながら、

誰もが寝静まった夜に、

ふすまの隙間から息子の寝息を確認する様な、

また、

ある母親は、

その臨終にあっても、息子の務めの邪魔になるからと言って、

呼び戻さないよう家族に言った、

そんな話があるのです。

 

 

 ◆ 微笑を浮かべる日本人の内心

 

日本に於ける、クリスチャンの間で

海外に見る様な熱心な宣教活動が展開されないのも、

この、克己心が一つの要因となっています。

日本人は、

たとえ、魂が揺さぶられるような感情になっても、

その感情のままに熱狂する事は、極めて稀なのです。

これは極めて正しい事であると言えます。

 霊的な、あるいは感情的な話を、

自分の感情の盛り上がりで軽々に発言することは、

モーセの十戒の第三の戒め

出エジプト記20章7節

「あなたは、あなたの神、主の名を、みだりに唱えてはならない。

 主は、み名をみだりに唱えるものを、罰しないでは置かないであろう。」

を破っている事と同じなのです。

余りにも価値ある事柄を、大衆の前で大っぴらに叫ぶ事は、

そこにどうも誠実さが感じられず、

日本人にとっては耳障りに感じるものなのです。

 

 侍たるもの、石榴のように、

口を開いて己のはらわたを見せる様な事は慎むべき、として

「口開けて腸見する石榴かな」という諺があります。

あるドイツ王家の人が言った

「呟く事無く、忍耐する事を学べ」という言葉と通じるものです。

悲しみに暮れる日本人に、その心中を案じて尋ねたとしても、

大概は、笑ってその悲しみを隠し、いつもの様に接するものです。

外国人がこれを見たら、狂っていると思うかもしれませんが、

これこそが日本人の性質なのです。

日本人は、どれだけ辛い状況に追い込まれても、

敢えて笑顔を絶やさず、

悲しみや怒りの感情を制御するものなのです。

この感情が爆発しないために、安全弁として用いられたのが「詩歌」でした。

加賀の千代女は、亡くした子供に思いを馳せ、

「蜻蛉つり 今日はどこまで 行ったやら」

と歌いました。

 

 日本文学の真珠の様な輝きを、

外国語でありのまま伝える事は不可能ですから、

これ以上の引用はやめたいと思います。

ここでは、

様々な感情を内に秘めた日本人の笑い、

その日本人独特の胸の内の在り方について、

少しでもお伝え出来れば良いと思っています。

 

 

 ◆ 心の平安が、克己の理想郷

 

 日本人の、死を恐れない精神や忍耐力について、

海外ではよく、

神経の細やかさが無いからだと言われていますが、

それも無い事は無いでしょうが、

ではなぜ、

日本人はいつも神経を張り詰める性格ではないのでしょうか?

落ち着いた風土や、社会体制にも要因はあるでしょうが、

私の感想は、

日本人は、どの民族よりも感情的であるがゆえに、

自ずと、常に強力な自制心を持つ特性を備える様になった、というものです。

長きに亘って培われてきた克己心の徳目ですから、

これについて、どれだけ長い説明をしたとしても、

完璧な解説は出来ないかもしれません。

 

 克己心を養うための訓練では、

時として度を過ぎやすい一面がありました。

それにより、

素直な一面を歪ませてしまう事や、

頑固者、偽善者、愛情欠乏症を生み出す事もあったかもしれません。

時を経て醸成される倫理観念は、

如何なる徳目にも、

表と裏があるものです。

それについて全否定する事なく、

徳目ごとに良い点を選び出し、理想を追求し続けてこそ、

絶対的真理に近づく事が出来るでしょう。

 

 次に述べるのは、

自殺(切腹)と、復讐(敵討ち)についてですが、

切腹に於いて、この克己心という徳目が

究極にまで到達した事を、お伝えしたいと思います。

 

 


 

Copyright © 2022 日本の未来を考える会

本書はベルヌ条約により保護される著作物です


Ⓒ 2008-2023 日本の未来を考える会

 

日本の未来を考える会 北海道旭川事務局

メール:nmkinformation@gmail.com

FAX:0166-30-1391

 

当会は全国の各種企業法人個人からなる民間の団体です

政党、各種カルト宗教団体等との関係はありません

【安全保障について】日米地位協定・統一指揮権密約などで、自衛隊は米軍の指揮下にあり、日本に主権はありません。 また、日米安保(二国間条約)より上位の国連憲章:敵国条項によって有事の際、日本はアメリカに守られる保証もない現状があります。 竹島侵略の際の韓国軍の指揮権はアメリカにあったという情報も出ています。 安全保障を完全とする為には、根本的な解決が必要であり、まずは「自給自立国家日本」を立てる為の突破口となる「モデル都市」の実現です。